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海外だより

藤田にこ『食ッキング・食っきんぐ』

月の泡立つ夜に…自家醸造ビールで乾杯!

寒い冬でも暑い夏でも、一年中赤ワイン一辺倒のにこ。このにこの、重い腰ならぬ重いハートを動かすビールが現れました!招かれたお宅で供された、自家製ビール。なんと15年前から自宅で作り始めた熟成ビールだというので、にこのハートの食指が、そわそわと動き始めました。
日本では、アルコール度数1%以上のものは私的製造が禁止されているそうですが、こちらカナダでは自由。自宅で製造する人も少なくないとか。クロードさんは、毎年春の気温が安定してくる時期に、まとめて作るそうな。様々な風味づけをして、バラエティ豊かなビールが誕生していきます。


水と麦芽で麦芽汁を作成。煮沸、冷却の後、酵母を加えて第一次発酵。その後容器を移して第二次発酵。瓶の中で熟成を重ね、2ヶ月後くらいに飲み頃の時期に入ります。単純な作業ですが、消毒と温度管理に気を配りながら、愛情をこめて、たくさんのビールを造るそうです。一度に大量の水を持ち上げる、かなりの力仕事ともお見受け。クロードさんの屈強な腕にもきっと、ビールの香りがしみ込んでいるに違いありません。

ビールを御馳走になるお礼に、おつまみになりそうな豆腐料理を一品御提供。そしていよいよ、ドリンクタイムです。にこが頂戴したビールは、5年前のと10年前のと1本ずつ。長い年月をじっくりと見つめてきた大御所たちです。赤ワインの10年物を飲む時の興奮が同じように蘇ります。ポンと勢いよく栓を抜くと、日々重ねられてきた芳醇な香りが一気に飛び出します。ビールってこんなに香りが素敵だったかしら。興奮し始めるにこのハートをしり目に、上品な琥珀色や深遠な大地の色をしたのビールが、背高のっぽのコップに、勿体ぶるようにゆったりと注がれます。頂点に君臨する泡は、リッチなカプチーノのような分厚いクリームの状態。きめ細かい泡のつぶがビールの旨みを逃さず閉じ込めます。

乾杯。香りに遅れること数分、厳かに液体状の宝石を口に運びます。ごくごく流し込むのではなく、口中にたゆらせ、粛々と喉の奥へと送りだす。1本目からは生姜の刺激。2本目からはレモンの爽やかさ、そしてどうやらフランボワーズの香りがします。10年前のフランボワーズは、甘酸っぱさに不思議なせつなさをしのばせて、口中に古き良き時代の野の風を舞い起こします。

大切に慈しむように飲む、歴史そのもののビール。5年、10年の間に自分の身の上に起きた様々な出来事を思い返しながら、過去だけでなく明日からの未来をも愛しく感じられてきました。「今を満喫する」ところの延長に初めて見える過去と未来を、宝石の煌めきに染めあげてくれた一期一会のビール。あなたにもう一度、心をこめて乾杯…

La pleine lune cremeuse et tendre
Couvre ma pudeur debordante
La biere faite il y a longtemps
Belle femme de framboise se retournant vers...

クリーミィな満月が 
溢れる赤裸々に優しく蓋をする
15年前に作られたというビールは
フランボワーズを香らせた見返り美人…

Photo by Claude Iamonico