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海外だより

藤田にこ『食ッキング・食っきんぐ』

Le vin, de la poesie en bouteille…

「ワイン、それはボトルの中の詩」とは、イギリスの作家、ロバート・ルイス・スティーヴンソンの言葉。彼のように考えるのなら、今日会った出来事を片っ端から語らせる、饒舌で叙事詩的なワインもあれば、音と行間のバランスを楽しませようと、あえて寡黙で、短い詩を思わせるワインもある・・・コルクを抜いて漂い始める香りに、その後の詩の展開を想像して、にこはもう既に酔い始めるのが常・・・

 ここモントリオールがあるケベック州では、SAQ(ケベック・アルコール協会)がアルコールの販売管理をしています。SAQは世界のワイン製造業者のお得意様。毎年世界各地から、ワイン製造業者が、新製品、人気商品をひっさげてプロモーションにやってきます。
 お陰様で、今年も種々のワインに関するイベントにご招待いただいておりました。スイス、ドイツ、ポルトガル、イタリア、フランス、南アフリカ、ニュージーランド・・・

 
イベントで様々なワインと出会うのは勿論大変幸せなことですが、イベントを通じて出会う素敵な方々、その方々との御縁は、にこにとって一生の宝物。今日は、そんな出会いや御縁をいくつか、行数とにこの覚醒具合が足りてる範囲で、お伝えすることといたしましょう。ワインなる詩を紡ぎ、語り、愛でる、大詩人たちの御紹介です。

1.ドイツワインの日





 5月21日、ドイツから、2014年のワインの女王、Nadine Possナディーヌ・ポスさんがやってきました。ナディーヌさんは、毎年開かれるドイツワインのコンテストで、美しさのみでなく、その知識と造詣の深さを評価されて女王に選ばれた、笑顔が輝く素敵な女性です。ナディーヌさんは、ドイツのGeneration Rieslingを引連れて、カナダを東奔西走。ここモントリオールではランチと合わせた試飲会を開催しました。
  試飲会では、赤白織り交ぜ10種のワインが披露されました。ナディーヌさんの解説のもと、順に味わっていきます。まずは白。ただ音の響きがドイツ語っぽいから、と名付けられたという、Fritz Muller Perlwein、はちみつの味がするShiny River、”Hand in Hand"の名前がお洒落なGrauburgunder QBA Trockenなどが運ばれてきました。エストラゴンとライムの効いたビンナガマグロに、さっぱりと、でも奥行きを感じさせつつ絡みつきます。続いて赤。ドイツは白ワインばかりが有名ですが、実は赤ワインの国内消費はかなりのもの。国内で相当購入されるため、かえって国外に流出していないそうです。なかなかの成熟ぶりのTschuppen、人生をおおいに楽しむ土地柄がそのままワインにしみ込んだような面白さのあるSpatburger QBA Trockenなどをいただきます。合せるのは、スペイン風に、トマトベースで香辛料をきかせた、ちょっぴりエスニックなアレンジの鶏の胸肉。こうした軽めの肉類にも、そして恐らくどっしり重いお肉にもしっかりついてきてくれそうな、幅広い味わいのあるワインでした。デザートのパンナコッタには、甘口のZeltinger Sonnenuhr Riesling Ausleseが付き添います。2012年、まだ新しいけれど、若いなりの溌剌とした味わいの心地よさに驚き。恐らく年齢を重ねれば更に美味しさを深めていくであろうという、嬉しい予感に満ちていました。
 ナディーヌさんはまだ日本にいらしたことはないそうですが、ぜひとも、ドイツワインの女王として、日本を訪れたいと意欲満々でした。何よりドイツワインを語る時の、こぼれんばかりの笑顔が魅力的。溌剌としたドイツワインがそのまま、ナディーヌさんの輝きに、そして熟成を予感させる奥深さがそのまま、ナディーヌさんの瞳の真剣さに重なりました。

Nadine Poss: http://www.weingut-poss.de/cms/index.php?id=43&L=1

 そしてこの日の出会いはナディーヌさんだけではありませんでした。並居るコラムニスト、ワインブロガーの中、幸運なことに同じテーブルに、ナディーヌさんと、昨年度の世界ソムリエ大会で準優勝をしたVeronique Rivetヴェロニック・リヴェさんも同席していたのです!この準優勝のことはこちらでも大きく取り上げられ、その後、ワインの専門家として、文化人として大活躍。2013年の時の人にも選ばれました。世界大会は東京で開催され、ヴェロニックさんは、大会での観客の多さ、メディアの反応、日本人のワインへの関心の高さに感激したそうです。ヴェロニックさんは、特にドイツワインのラベルのわかりやすさ、デザインのモダンさを詳しく教えてくれました。実は間もなく、ワインバーをGatineauガティノー地方に開店予定。お店の名前Soifソワフは、「喉が乾いた」というフランス語。ヴェロニックさんお勧めのワイン、笑顔とともにあるおもてなしを渇望してやってくるお客様が、わんさか溢れることでしょう。

Veronique Rivet: http://veroniquerivest.ca/

2.ベルジュラック・ワイン・マスタークラス 






 ボルドーやサンテミリオンなどのワイン名産地に挟まれていて、かえってあまり名前が知られていないベルジュラックですが、実は13のA.O.C.、12000ヘクタールのワイン畑を抱えるところ。「シラノ・ド・ベルジュラック」や「ラスコー洞窟」などが有名ですが、ワインの世界でも名を知らしめようと、6月5日、観光局とワイン製造業者がこぞってケベックへやってきました。
 
 ワインの詳しい解説と試飲とを行う、プロ限定の1日マスタークラス。今回の先生は、Jacques Orhonジャック・オロンさんです。ジャックさんは、カナダ・ソムリエ協会の創設者、作家、ソムリエマスター。その詳細な解説書は、プロの方々が参考書として使うほど。そのジャックさんによるクラスとあって、参加者は私も含め興奮気味。そんな我々のドキドキぶりをよそに、ジャックさんは、常に冗談とユーモアを織り交ぜながら和やかな雰囲気でクラスを進めていきます。
  白ワインとしてまずはChateau Tour des Gendres”Cuvee de Conti”、次に、不思議な深みがお魚の味わいをより深くしてくれそうなVignoble des Verdots、 ジャックさんが蟹との相性が抜群だったと力説したChateau Calabre Montravel をこの順に飲み比べ。赤は野性的な香りのChateau Grinou、よくバランスが取れていて数年後が楽しみなChateau Moulin Caresse”Magie d’Automne”、どっしりとした肉料理にも負けないしっかりとした味わいのChateau Tour des Gendres”Cuvee Gloire de Mon Pere”、エレガントながら強い個性を忘れていないChateau les Farcies du Pechを試飲しました。フルーツデザートとよくマッチしたのは、黄金色が花の香りを含んでいるDomaine de l’Ancienne Cureの”Cuvee Jour de Fruit”でした。
 この地を何度も訪れているというジャックさん。ワインの生まれ育った土地に足を運び、その空気を吸い、土に触れ、そこでワインに愛情を注ぐ人々と語り合う。勿論、ワイングラスをいつも片手に・・・そんな深い交流を続けることで、ワインという偉大な存在の伝記を丁寧に書きこんでいくような、そんな使命感を感じているジャックさんでした。

Jacques Orhon: http://jacquesorhon.com/

 この日のクラスメートも、錚々たるメンバー。カナダの公共テレビ・ラジオ放送であるCBCラジオ・カナダのホームページにワインに関するブログを連載している、ロナルド・ジョルジュRonald Georgesさんとも話が弾みました。「たった今ヴィルヌーヴにインタビューしてきたところなんだ」と言いながら、コンピューターを開き、記事を書き始めます。ヴィルヌーヴは当地出身のF1レーサー。ちょうどF1グランプリがモントリオールで開催される時期であり、帰郷していたヴィルヌーヴに、彼が所有するワイン畑のことについて質問してきたそうです。ロナルドさんは、大きな体と裏腹に舌の繊細さと表現の的確さに定評があります。時間を見つけて今度は一緒に日本酒を飲みましょうと約束しました。

Ronald Georges: http://blogues.radio-canada.ca/millesime/author/rgeorges/

 こうしたイベントは多くあれど、世界は狭く、参加するうちに同じ顔に何度も出会うようになります。まして、当方はいやでも目立つ東洋人女性、あちらから「この前も来てたね」とお声をかけていただくこともしばしば。ここで出会う、食に携わる人たちは、食に対しても人に対しても、大胆さと繊細さ、おおらかさと細やかさをあくまで心地よくマリアージュさせて接しています。
 イベントという機会には勿論のこと、そこで出会う食事やワイン、そして何より集う人々に対して、その御縁に感謝するばかりです。他を知ることは己を知ること。私を刺激してくれる輝く存在たちとの御縁の一端を、これからも御紹介してまいります。またお便り申し上げます!

 ”Le vin est le rossignol entre les boissons”...「ワインは飲み物の中のナイチンゲール(小夜啼鳥)」・・・ヴォルテール