“Close your eyes and open your mind to a culinary adventure like no other in the dark.”

藤田にこ『食ッキング・食っきんぐ』

昨晩訪れた話題のレストラン、「O NOIR」(オー・ノワール)のうたい文句です。NOIRは、フランス語で「黒」「闇」のこと。このレストランは、お店の中全体が闇に包まれていることで今話題のお店です。

2ヶ月前に予約してようやく訪れることのできたお店、まず薄暗いウェイティングルームで、あらかじめオーダーする食事を選びます。ベジタリアンの私が選んだのは、前菜にアボガドサラダ、メインが赤ピーマンのグリル・チーズ添え、デザートがフルーツのソルベ。娘はメインに海老のグリル、友人二人は、それぞれタコのマリネ+海老グリル+チョコムース、野菜サラダ・きのこソテー+フィレ肉のグリル+チーズケーキ。グラスワインやビール、お水もこの時に注文しておきます。さて、オーダーが決まったら、ロッカーに荷物を預け、いよいよ隣のメインルームへと出発。テーブルを担当するウェイターさんがやってきて自己紹介。わがテーブルは、アメッド。黒人系の大きな声の優しいお兄さん。

アメッドをはじめ、このお店のウェイター・ウェイトレスさんは、全員blind、目が不自由な方ばかり。アメッドの指示により、我々4人は、1列に並び、左手を前の人の左肩にのせ、おそるおそる闇の中へと歩を進めます。

扉の向こうは、本当に真っ暗。足元も天井も近くも遠くも、まったく見えません。目をつぶっているのと同じ感覚。よたよたとたどりついたテーブルになんとか自分の椅子を確認して腰を下ろします。テーブルの上にはフォークとナイフが準備されています。手探りでそれを確認。

ほどなくしてパン、そして前菜からメインへと料理は運ばれてきます。アメッドが持ってきた料理は、アメッドがこちらに手渡し、こちらは手にお皿を受け取り、そっと自分の前のテーブルに置きます。視覚が使えないと、他の五感がその分まで働こうと、やる気を増しているのが感じられます。食材を想像させるよい香りが嗅覚を刺激。BGMもないなかで、食材が口中でたてる音は、体の内側からエコーを送ってきます。

アボガドはフォークとナイフを使ったものの、メインからは見えないのをいいことに、思いきって手づかみで食べてみることに。これが意外に心地よい!食材の温度がダイレクトに伝わってくるし、手で口に運びこむ、口は手から運んでもらうという連携プレーに、手も口もいつもより積極的に食材に向かうのです。

そういう意味で、デートスポットとして絶対お勧め!sensualなひと時を、愛する人とシェアする楽しみに酔えることでしょう。闇の中で距離感が全くつかめませんが、例えば手を握ったり、食事のあげ合いをしたりすることで、むしろ自然に互いの距離が「縮まる」のです。

肝心のお味の方は、想像以上に美味しくてびっくり。視覚を遮断され判断基準をより厳しくしたであろうわが味覚をも、満足させる堂々としたものでした。盛り付けも、手探りで確認するかぎり、いたって丁寧に美しく飾っているようでした。シェフの方にご挨拶したいのはやまやまでしたが、闇の中ということで断念。

ゲーテの臨終の言葉「もっと光を!」は有名ですが、さしずめ「もっと闇を!」という気持ちにさせられたひと時でした。応用して家でもできそう。五感の研鑽、胃腸への心地よい刺激を必要とする時に、トライしてみる価値ありです。

今は「明かりをつけたら闇がもったいない」という言葉を思い出しています。

「どうか僕を幸福にしようとしないで下さい。それは僕にまかして下さい。」

 (アンドレ・レニエ)