世界文化のモザイクーワイン編ー

藤田にこ『食ッキング・食っきんぐ』

皆様大変御無沙汰しておりました。食ッキング・食っきんぐの藤田にこです。
何度となくフェードアウトと復活を繰り返してまいりましたが、このたびの返り咲きは私個人としても特別な感慨があります。というのも、海外生活21年、そのうちここカナダのモントリオールでの生活が12年目となりましたが、昨年晴れて、カナダの永住権を取得したのです。今まであやふやだった足場がようやく固まり、とはいえこれまで世界をうろうろフラフラしてくる中で培った自由奔放さは失うことなく、当地の食を始めとする各種文化をより深く学んでいけたらと思っております。

おりしも、このたび日本フードアナリスト協会の評議委員に御選出いただきました。まことに光栄でございます。私なりに貢献できることを探して益々励んでまいります。どうぞよろしくお願い申し上げます。
http://www.foodanalyst.jp/councilman.html

さてさて。復活第一弾のコラムは、「人種のモザイク」と言われるモントリオールに相応しい話題をお届けします。世界各地からの移民が集うモントリオール、それぞれの移民が祖国の文化をそのまま保持し続けられる環境にあるのが、「人種のるつぼ」ニューヨークとは異なる特徴です。
長い冬が明ける4月頃から、ワインの試飲会やセミナーの御案内がぞくぞく届き始めます。カナダの中でも、ここケベック州はオンタリオ州と並びワインの購買率が高い場所。欧州やオーストラリアなど、世界のワイン製造業者やそれをバックアップする公的機関が宣伝に押し寄せてきます。お陰様でそうした試飲会に御招待いただく機会に恵まれているのですが、それぞれのお国柄が表れていてとても面白いのです。

こちらはドイツワインの試飲会。開始時間が11時なのに10時半に集合がかかりました。きっちり11時に始められるようにとのこと。ワインそれぞれに合うお食事つき、進行役は2013年東京で開催された世界ソムリエ大会で準優勝に輝いたヴェロニック・リヴェさん。お土産にはワインオープナーや膨大な資料、ワイングラスやお皿の入ったピクニックセット入りバッグ。どれをとっても完璧なオーガナイズで、会場のあちこちから「さすがドイツ」の声が。

オーストリアも開始時間はきっちり守りましたが、後半はのんびりとした展開になりました。種類豊富な地元からのデリカテッセンがワインによく合います。

こちらはフランス。欧州で開催されているサッカー大会、ローヌ・ダービーに合わせて、同地方のワインを紹介するイベントです。愛の国フランスらしいのが、スピード・デイティングならぬワインのスピード・テイスティング。銘柄を隠してワインを制限時間内にテイスティングし、お気に入りの順位をつけて発表、あーだこーだと議論します。こうしたイベントに招かれるのは私以外はほぼ全員、ソムリエかワインジャーナリスト。ハイレベルな戦いの中、開き直った私の好みは案外的をついていたらしく、拍手をいただきました。

同じフランスでも、プライベート輸入のサロンでは、普段はあまり目にすることのないワインが楽しめます。

プロヴァンス地方はなんといってもロゼワインが有名。試飲会兼ソムリエ大会の夕べは、ロゼ色の照明やデコレーション一色です。

イタリアのキャンティ・クラシコのセミナー&試飲会。イタリア貿易振興会がバックアップしているだけあって、キャンティ・クラシコ協会の会長自らお出まし。そしてキャンティの地でワイナリーを所有するケベック州出身のリタ・パピーニさんも笑顔で迎えてくれました。

ポルトガルからは、ポルトの貴公子、ルイ・ファルカオ先生が来訪。個人的にも大好きなポルトを8種類じっくり味わう至福の時間。

こちらは、オーガニックワインの試飲会。今、時代は断然オーガニックワインの方向にぐんぐん向かっていますから、どのワインにも勢いが感じられます。

ギリシャワインは、どうしても海や陽光のイメージが一緒にやってきます。開催場所はモントリオール科学センター。セント・ローレンス川を窓越しに眺めながらグラスを傾けると、まるでエーゲ海を航行中の気持ちになるから不思議。
この他にもホテルやレストランの一室で行われる小規模な試飲会、セミナー、サロンなど、毎週のように開催されています。「ワインの奥深さは人間の喜怒哀楽並み」というのは私の勝手な迷言です。グラスごとに、一口ごとに喜怒哀楽を変化させるワインの魅力に、どうやら私もモントリオールの人並みに取りつかれているようです。
実際に世界のその地へいかずとも、ワインを通じて旅の醍醐味の一端を堪能できる、食の世界の素晴らしさに感嘆。今日もグラスを光にかざして、その向こうの世界を垣間見いたしております。

<Trop et trop peu de vin interdisent la vérité> Blaise Pascal
 「真理の発見は飲み過ぎても駄目だが、飲まなくても駄目」ブレーズ・パスカル