オムニヴォール in Montreal

藤田にこ『食ッキング・食っきんぐ』

御無沙汰しておりました。
カナダ式の長い夏休みを更にまたがる形でバカンスをいただいておりました。
心身ともにリフレッシュ。実りの秋開始に合わせ、再び食世界の一期一会を御案内してまいります。どうぞよろしくお願いいたします!

OMNIVORE(オムニヴォール)とは、「なんでも食べる」という意味ですが、この名を冠した団体があるのを御存じでしょうか?

OMNIVORE http://www.omnivore.com/

2003年9月に設立されたこの団体は、出版とフェスティバル開催とを通じて、フランス料理を始めとする世界各国の料理、特に新進気鋭のシェフや料理を紹介、応援していこうとするものです。

出版に関しては、食関連雑誌、レストランとワインのガイド、そして料理のレシピを集めたものを定期的に出版しています。フランス、ベルギー及びカナダの書店で購入することができます。

一方のフェスティバル。地元のシェフと世界のシェフとをつなぎ、料理を分かち合い、技術を切磋琢磨し、文化を突き合わせ、より良き未来を想像できるような流れを創ることを目的としています。2006年に初めて開催されたフェスティバルは、2012年以降、Omnivore World Tour(オムニヴォール・ワールド・ツアー)と題され、これまでにパリ、マルセイユ、リヨン、ジュネーブ、ブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク、サンフランシスコ、シドニー、上海、イスタンブール、ロンドン、そしてここモントリオールにて開催されました。

2016年9月16日から19日まで、このツアーがモントリオールで展開されました。モントリオール開催は既に5回目。食文化も若いエネルギーも、お祭り騒ぎも大好きなモントリオールにはうってつけのフェスティバルです。

フェスティバルの一つの柱が、マスタークラス。地元の有名シェフ、或いはニューヨークやブラジル、ヨーロッパからやってきたスターシェフが、その技術を一般に伝授してくれるものです。並みいるシェフが、持ち時間30分の間に華麗な包丁さばきや職人技を披露。観客は5分の休憩を挟みながら、複数のシェフから講習を受けることができるのです。しかもツアー5周年の今年は観覧無料!なんて贅沢な催し物なのでしょう。

日中にたっぷりシェフの講義に魅せられた後もまだまだフェスティバルは続きます。夜は地元のレストランにゲストシェフが加わるコラボレーションによる特別ディナーが供されました。

私が伺ったのは、お洒落な店構えとMarc Alexandre Mercier(マルク・アレクサンドル・メルシエ)シェフによる洗練されたお料理が人気のレストラン、Hôtel Herman(オテル・エルマン)。ゲストはニューヨークのレストランLuksus(ラクサス)からDaniel Burns(ダニエル・バーンズ)シェフ。ティスティングメニュー5種に今宵は、ワインならぬビールが寄り添うという特別な試み。

Hôtel Herman http://www.hotelherman.com/

Luksus http://www.luksusnyc.com/

最初のスナック3種は牛のタルタル、舞茸にしし唐クリームソース、そしてカキフライのキャベツ包み。手づかみで一口で頬張れるお手軽さなのに味わい深いというサプライズ。合わせたビールはこれまた、アルコール度数2.7%と軽いのに風味豊かなBikini Beer(ビキニビア)。日本の食材が大好きだというダニエルさんのしし唐クリームは癖になる美味しさです。

前菜の各種じゃがいも盛り合わせは、おなじじゃがいもでもこうも味が違うかと驚かされましたが、ここに合わせたビールはフランスのBière vivante de table(ビエール・ヴィヴァント・ドゥ・ターブル)。食卓の気軽なお供というコンセプトが、じゃがいもとこのビールの共通点。気軽なお供こそ、飽きのこない優しい味が大事だと教えてくれます。

オマール海老とほおずきにトマトのブイヨンスープを目の前でかけてくれた一品は、この日のお料理のベスト1でした。プリプリと弾力が心地よいオマールにしみ込んだ温かいトマトスープの、なんと優しいこと!寄り添ったビールはBlood Brothers(ブラッド・ブラザースー血をわけた兄弟ー)というブルワリーのBrute Tart Saison(ブルット・タート・セゾン)。

メインのお肉料理は鴨のロースト。とろけそうに柔らかい鴨肉に寄り添うソースはビーツと赤シソ。ここでも日本の食材が顔を出します。いい仕事してます!合わせるビールはスイスのビール、Brasserie trois dames (ブラッスリー・トロワ・ダム)社のFiancée(フィアンセ)。このビールは赤ワイン葡萄種Pinot Noir(ピノノワール)を使っています。重厚な鴨肉に釣り合うフルーツ風味豊かなビールで、胃腸の宴もたけなわ。

デザートは茶葉とハーブを使ったアイスクリーム。メインディッシュでお腹いっぱいになっていたはずなのに、軽い口当たりのデザートはするする入っていくのが不思議。合わせるビールはWestmall trappist (ウエストモールトラピスト)のDubbel(ダッベル)。ビールからもハーブとフルーツの香りがして、最後までマリアージュを楽しむことができました。

シェフのダニエルさん自らお皿を運んでくれて、お料理を説明してくれました。若くて気さくな、でもお皿の前では真剣で、御自身のインスピレーションを最大限に器に載せていく才能と技量に溢れた方です。

胃腸も心も満たされて、幸せな気持ちでオムニヴォールな一日を終了。実は次の日にも面白いパーティーに参加したのですが、こちらのお話はまた次回といたしましょう。

Beer makes you feel the way you ought to feel without beer
-Henry Lawson-
ビールを飲むと、ビールを飲んでいない時にどんな感じがするかがわかる 
ヘンリー・ローソン