たわわに実る、シスター・アンジェルの愛

藤田にこ『食ッキング・食っきんぐ』

夏休み最後の日曜日8月24日は、燦々と照る太陽と爽やかな風に恵まれた、最高のお天気となりました。そんなお天気を最大限に活かすべく、ここケベック州のシェフ・料理人・ケーキ職人協会(La Societe des chefs, cuisiniers et patissiers du QuebecーSCCPQ-)が企画する田園パーティー、Fete Champetreに出かけてきました!
田園パーティーという言葉の響きからしてのどかな雰囲気が伝わるかと思いますが、今回の田園パーティーは、モントリオール市北部の川沿い、緑に恵まれた静かな地域にある、モントリオール・ノートルダム ドュ・ボン・コンセイユ修道会(Institut Notre-Dame du Bon Conseil de Montreal)の広場にて行われました。ここには、ケベックでは大変有名なシスター・アンジェル(Soeur Angele)のコミュニティーがあります。今回の田園パーティーは、シスター・アンジェルのイニシアチブの元に開催されたチャリティーイベントでもありました。

シスター・アンジェルはイタリア系移民。ケベックにやってきたのは17歳の頃。フランス語の習得に苦労しながら修道院で学び、その修道院で料理も学び、教え、後に観光ホテル学院(Institut du Tourisme et de l’Hotellerie)にてさらに料理を極め、卒業後も同学院で調理指導。その後、公共テレビ局であるラジオ・カナダにて料理番組を担当。そのユーモアと愛溢れる人柄と、家庭的なおふくろの味の美味しさとに人気沸騰。ケベックの家庭の食文化を、76歳の現在に至るまで、テレビの画面や数々のレシピ本から支え続けた大スター、大天使なのです。
人気者シスター・アンジェルは、どんなに人気が出ても、変わらずユーモラスで温かく、奢らず、貧しい人、恵まれない人のために力を尽くします。今回のイベントもまた然り。SCCPQ所属のシェフたちが、ボランティアで出店を出し、参加者に様々な食事をふるまいます。参加者の参加費用は、そのまま、恵まれない家庭や子供たちの援助金となるのです。勿論、シスター・アンジェルもボランティア。シスター・アンジェルの依頼なら、と引き受けたシェフが数知れず。参加者は様々な本格的料理に舌鼓を打ちつつ、シスターアンジェルの楽しい話に引き込まれていきます。

格安で販売するトマトソースは、前日に2500リーヴル(1250キロ)のトマトが寄付され、これを350人のボランティアがソースにしたもの。心をこめて作られたソースが格安の値段で買えるとあって、参加者はこぞって、ソースを買い求めていました。
シスター・アンジェルの名前をそのままいただいたチーズも並んでいました。牛とヤギのダブルチーズで、わずかにきのこの香りがするこのチーズは、口にすればまろやかで柔らかい口どけが心地よく、子供から大人まで大好きになります。まさにシスター・アンジェルそのもの。

シスター・アンジェルの飾らない人柄に魅了された人が、この日多く集いましたが、その代表は、モントリオールのドゥニ・コデール(Denis Coderre)市長。スピーチでは、貫禄のあるお腹をポンポン叩いてみせて笑いをとりつつ、シスターをはじめとする企画者たちの労をねぎらい、市として継続的に同イベントの後押しをすることを約束しました。

往年の名歌手、アンドレ・ルジュンヌ(Andre Lejeune)が会場中に響き渡る声量で美しい歌声を披露すれば、本物のシェフたちからなるコーラス隊が、楽しくケベックの歌を歌いあげます。
お祭りごとは、とことん楽しむのがケベック流。オーガナイザーも参加者もゲストも一体となって、一期一会の午後を満喫しました・・・。勿論私も参加。大いに歌って大いに食した後は、大地に寝そべって、地球の呼吸を確かめました。

シスター・アンジェルの愛は、食を通じて人々を笑顔にし、世界へと広がっていきます。これからは、枯れることのない、永遠に実り続けるシスター・アンジェルの果実を、毎日心から取り出して一かじりし続けていきたいものです。